肥後人物史 志士・上田休より抜粋 但し( )書の歌については原本表記としたため若干の差異が認められる。最後尾の歌は、肥後人物史にはない。 管理人
休 刑に臨むや辞世の歌あり
手折とも何惜しからむ春雨にとても散るべき山さくら花
みし世の春も夢なれや心の花は散り果てゝ昔ながらの櫻川はかなき名をや流すらむ
夜更けて四方に聞ゆなり誰其の影は覺束な燈暗く降雨に獨り袖ぬらすなり
又會て伯夷叔齊に題するの歌あり曰く
おりしらぬ人とないひそおもひいる心の奥の峰のさはらひ
獄中作
孝子別家猶未歸、 獄中魂夢至慈圍、 老夫不有双親在、 今日為君空濕衣
右小子思老親應小林某之需
アラカリシ野分ニツケテ草ノ庵ノ夜ノ雨サヘヲモイヤルカナ
(あらかりし野分につけて草の庵夜の雨さへ思ひやるかな)
秋風ノタヨリニキケバ古サトノ萩カ花妻今サカリナリ
(秋風のたよりに聞けば古里の萩が花つま今盛りなり)
ひとやもり問ひ来る酒のうつりかに似しよの春の面影にたつ
秋ノヨノ暁サムクナルマゝニヒトリフスマハモノコソオモヘ
(秋の夜の曉寒くなるまゝに獨臥す間は物をこそ思へ)
陰
陰蟲墜露亂紛々、 嶽裏夜深思細君、 曉月在窓衾枕冷、 夢魂飛入故山雲。
○
月落虫聲暗、 風高秋気深、 孤囚郷夢後、 獄獨自擁凉衾
罪人は葛の浦葉のそれならでかへるかへるといはぬ日もなし
キクニサヘソテハヌレケリ秋カセニヨセテハカヘル玉ノウラナミ
(聞くにさへ袖はぬれけり秋風によせてはかえる瓊の浦波)
古里の露にちるてふ風の音の覺束なくもまとふころかな
八月罪囚猶未歸、 夢魂常向故園飛、 不菅夜夜秋風冷、 早有家人寄袷衣
○
曰賊曰官元兄弟、 不知憂国互交兵、 請看蚌鷸相持久、 終作漁人一鍋羹
ヨノサマヲナゲクココロハ赤ウルシヌレドモユメモムスバサリケル
(よのさまをなけく心はあかうるしぬれとも夢は結ばざりけり)
為聴雨隣夢魔聲、 自家郷夢却先驚、 枕頭到曉復無夢、 空算夢中多少情
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春盡幽囚猶未歸、 清風白露雁南飛、 獨憐今夜故園月、 不擣邊衣擣獄衣
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火ニヤカレ風ニタダヨウ民草ノヤカレテ枯ナン秋ソカナシキ